春闘の賃上げを前に初任給引き上げを表明する企業が相次いでいます。背景には言うまでもなく人手不足による人材獲得競争があり、初任給引き上げはその危機感の表れでもあります。
大手企業は銀行、証券、生保、建設、流通・サービス業などあらゆる産業が2023年からわずか3年間で大幅に引き上げ、30万円超の時代に突入。それに中堅・中小企業も追随しようとする消耗戦の様相を呈しています。
30万円といえば、一昔前の30歳前後の給与に相当しますが、単に新卒だけを引き上げればすむ話ではありません。例えば25万円の初任給を30万円に引き上げた場合、在籍社員との給与の逆転現象が発生し、先輩の給与が30万円を上回るように「補正」しなければなりません。少なくとも20代後半までは例えば1万円ずつ上乗せし、29歳で37万円にする必要があります。
問題はその後です。30歳前後になると多くの会社では主任・係長クラスになり、一挙に手当などで5万円前後アップするところもあります。本来なら30歳38万円の基本給プラス5万円で43万円になりますが、人件費の負担は重くなります。
初任給を大幅に引き上げた中堅企業の人事部長は「30歳以降の社員の給与も1万円のベースアップを実施したが、『若手は5万円以上も上がっているのに俺たちは10年働いてもこれだけか』という不満の声もある」と語ります。また、東京都内のある税理士は「中小企業の中には初任給を上げすぎたために、30代の給与を上げられず不満や反発が起きているところもある」と言います。
もちろんそのしわ寄せは中高年社員も受けることになります。
一方、企業にとってもビジネス経験もなく、スキルを持たない学生に30万円を支給するのはリスクもあります。早期離職が発生すれば、採用費や人件費を含めたコストも決して小さくありません。