人手不足倒産の動向調査(2023年度)
帝国データバンクは4月5日、2023年度の「人手不足倒産の動向調査」を公表しました。従業員の退職や採用難、人件費高騰などに起因する「人手不足倒産」は、2023年度は前年度比約2.1倍の313件発生し、過去最多を更新しました。特に今年4月から時間外労働の上限規制が適用された対象業種の「建設業」と「物流業」がいずれも過去最多に上っています。
本調査結果によると、2023年度の人手不足倒産は313件となりました。人手不足は求人・採用難や従業員の離職に起因し、2022年度の146件から倍増しています。統計として遡れる2013年度以降で最も多く、新型コロナウィルス感染拡大前である2019年度の199件を大きく上回り、過去最多を大幅に更新しました。
すでに2023年10月時点で1月からの累計で206件に達するなど増加傾向にあり、その基調は今も変わっていません。本調査では「従業員の退職によって代替人材を補填できないことや、資格を持つキーマンの不在などによって従来の業務が困難となる。外注依存が高まり収益が圧迫され、資金繰りに支障が出るケースも多い」と述べています。
また、2024年4月1日から時間外労働の上限規制が適用猶予事業・業種となっていた建設事業、自動車運転業務についても適用されました。人手不足による機能不全が懸念される「2024年問題」に注目が集まっていますが、対象業種である建設業が94件と全体の30%を占めています。物流業も46件(14.7%)と、いずれも過去最多となりました。全313件のうち4社に3社にあたる232件が従業員「10人未満」の小規模事業者でした。
業歴別では、創業・設立から「30年以上」の企業が119件と全体の4割を占めています。なかには業歴100年以上の老舗も含まれています。
とくに「2024年問題」が懸念される建設・物流業界の今後の動向は予断を許しません。3月の物流業の人手不足割合は70.8%、建設業は69.0%と、全業種の52.4%を大きく上回っています。2024年問題を解決するには、労働環境の改善に向けて長時間労働を是正し、働きやすい職場を整える必要がありますが、従業員の増員が難しいなかで生産性向上などに対応しきれず、労働時間が削られれば、人手不足は一層の深刻化が予想されます。本調査でも「人手不足感が高止まりし、緩和する兆しは見られない状況下で時間外労働の上限規制がスタートしたことを踏まえると、人手不足倒産は今後も過去最多を更新する可能性がある」と指摘しています。
また、帝国データバンクの調査では、両業種は資材・エネルギーなどのコスト高騰に直面している一方元請けや取引先なでへの価格転嫁率は、建設業が38.0%、物流業が26.9%であり、全業種平均の40.6%を大きく下回っています。価格転嫁が進まなければ人材募集に不可欠な賃上げの原資の確保も難しく、厳しい状況が続くことになりそうです。